12月31日
- さて、今年の総まとめで良かったもの
- 小説:北村薫「空飛ぶ馬」
- 今年は今まであまり読まなかった国産ミステ
- リをずいぶんと読みましたが、北村薫は最大の
- 収穫でした。この作品は良い意味でミステリで
- はなく、本当に小説として楽しめ、深く味わう
- ことができます。「夜の蝉」「秋の花」と3冊
- 出ているシリーズです、是非、読んで下さい!
- ゲーム:ゼルダの伝説〜時のオカリナ〜
- N64・任天堂
- 任天堂のゲームは機種やジャンルを問わず、
- まずゲームとしての完成度が恐ろしいまでに
- 高いです。ストーリーやグラフィックとかい
- う問題ではなく、まずゲームとしての面白さ
- があってそこに付随していろいろなものがあ
- ります。そして、グラフィックなどをとって
- も最高レベル。これでは他の会社は太刀打ち
- できません。
- そんな中でもゼルダの伝説は特に傑作でし
- た。この作品はクリエーターとして有名な任
- 天堂の宮本茂さんが手がけた64本目の作品
- です。ゲーム産業自体がまだ十数年と歴史が
- 浅いので本当にベテランと言える人は少ない
- し、ともすれば発想が古くなりがちですがこ
- の人は完全に現役。
- 今年と言わず、今までゲームをやって来た
- 中で間違いなく最高の作品でした。
- コミック:MASTERキートン
- 小学館
- これは最近の作品ではありませんが、ワイ
- ド版が出たので思わず買ってしまいました。
- 日本人とイギリス人のハーフ、平賀太一・
- キートンは考古学者にしてフリーの保険調査
- 員。さらには英国空軍特殊空挺部隊SASの
- 出身という特異な経歴の持ち主。学生時代に
- 結婚し娘が一人いるが離婚し、大学講師の職
- もなかなか見つからずに保険調査員の仕事で
- ヨーロッパ中を飛び回る中、様々な事件にあ
- い、持ち前の機転で解決していきます。
- この作品で良いのは何よりも主人公である
- キートンの人柄です。軍隊出身ですがタフな
- 探偵というタイプではなく穏やかな好青年と
- いった容貌。暖かな人柄でユーモアに富み、
- 何よりも人生を楽しんで生きる主人公は楽し
- げで作中の人物だけでなく読者にまで活力を
- 与えてくれるのです。
- これも今まで読んだコミックの中では最も
- 好きな作品です。ワイド版が出たのをきっか
- けに読者が増えると嬉しいです。
- 映画、ドラマなどは面白いものもあったの
- ですが飛び抜けてこれといったものはありま
- せんでした。これはお薦め、といったものが
- あれば教えて下さい。
- では、良いお年を!
12月26日
- しばらく更新が止まっていました。
- さて、年末と言えば大掃除です。
- 今年は少し早めに始めたのですが、余裕が
- あると思って模様替えをしてみたところ、大
- 変な事になってしまいました(笑)
- 日頃からパソコン用のデスクが狭いと感じ
- ていたのでパソコンを勉強机に移し、今まで
- パソコンを置いていた机を勉強用にしました。
- パソコンは配線や電源コードが絡まってい
- るので移動させるのに思ったより苦労。
- また、パソコン机には本を立てるスペース
- がないのでそれを別なところに移し……など
- とやっている間に部屋中のものを移動する羽
- 目になってしまいました。
- しかも一日では片づかず、一時はわざわざ
- 物をどけて布団をしかなければならなかった
- りと生活スペースの確保もままならぬ状態に
- なっていました。
- まあ、大掃除はちゃんと計画を立ててやっ
- た方がいいですね(笑)
- 本の紹介。
- 「見たり、聞いたり」
- サトウサンペイ/朝日新聞社
- 以前、朝日新聞朝刊に「フジ三太郎」を連
- 載していたサトウサンペイのエッセイです。
- 「フジ三太郎」は新聞漫画の王道とも言え
- るパターンで庶民の立場から社会を風刺する
- といったものでした。
- そんなサトウサンペイのエッセイだったの
- で、皮肉の効いたものを予想していたのです
- が、意外にも素直な視点に驚かされました。
- 作者の素朴な人柄を感じさせる文章には、
- 毒のようなものはまるでなく、風刺というも
- のはわざわざするのではなく、素直にものを
- 見たときに結果として生まれるものなのでは
- ないかと思わせました。
- 漫画家の書く文章というのはあまり見るも
- のではありませんが、素直に人を尊敬したり、
- 海外のマナーに感心したりする姿勢にはとて
- も好感が持てました。
- 本の紹介。
- 「冷たい密室と博士たち」
- 森博嗣/講談社ノベルズ
- 犀川創平シリーズの第二段です。
- 読んでみて意外だったのは、結構普通
- の作品だったと言うことでしょうか(笑)
- どうもこのシリーズには常識では考え
- られないような解決が待っているという
- 先入観があったため、最後の辺りでは少
- し拍子抜けしました。
- さて、この作品には理系人間が数多く
- 出てきます。常に順序よく冷静に物事を
- 考え、論理的に事件を推理しようとする
- 人々です。探偵役、犀川のパートナーで
- ある西之園萌絵などはその系統です。
- 通常のミステリではパートナー……と
- 言うよりワトソン役はそれほど冷静な思
- 考ができないように性格づけされている
- 場合が多く、そこがこのシリーズの異色
- なところです。
- そういった中で犀川創平が異彩を放つ
- のは彼が純粋に論理のみで構成された人
- 物ではないためです。つまり、多分に文
- 系要素を含んだ理系人間だという事です
- ね。彼の専門が建築史だと言うことにも
- それが表れています。
- しかしこのシリーズにもずいぶんはま
- ったものです。短期間にこんなに読んで
- しまうとは……。
12月16日
- さて、しばらく更新が滞っていました。
- 本の紹介です。
- 「虹を操る少年」
- 東野圭吾/実業之日本社
- さて、以前「魔球」で紹介した東野圭吾の
- 作品です。
- 結論から言うと、イマイチでした(笑)
- 簡単に言うと、人間が進化して新しいコミ
- ニケーションを手に入れるという新人類もの
- の一種ですね。光のパターンによって言葉と
- は違う意志の伝達が出来るというアイディア
- そのものは悪くないのですが、人間が発する
- 光によって感情を読みとったり、人に感情を
- 与えたりなどだんだんと超能力のようになっ
- てしまったのは残念でした。
- まあ、特につまらないというわけではない
- のですが、せっかくのアイディアを完全に生
- かしきれなかったというところでしょうか。
- 本の紹介
- 「秋の花」
- 北村薫/東京創元社
- 円紫師匠のシリーズ第三弾です。
- この一連の作品はミステリではあっても
- そこに犯罪があったり、人が死んだりはし
- ませんでした。
- しかし、この作品で初めて人が死にます。
- 「事件」ではありません。しかし、この
- 作品を読んで何より強く感じるのは、それ
- がたとえ事件でなくとも人の死というもの
- は周囲の人間を悩ませ、影響を与えるとい
- う事です。まあ、当たり前の事なのですが、
- それを再確認させられるほどこの物語での
- 人の死は重いのです。
- この作品には、謎解きの楽しさというの
- はあまりありません。知らずにはすまされ
- ない、しかし知りたくはなかった事実が
- 浮かび上がったとき、そこにいる円紫師匠
- がどれほど頼もしく見えたことでしょう。
- ミステリというのは基本的に人が死ぬ
- 小説でした。解くためのパズルとして人の
- 死は存在するわけです。それが良い悪いと
- いう事が言いたいわけではないですが、こ
- んなミステリもあると言うことを読んで
- 知って欲しいです。
- 本の紹介
- 「覆面作家の夢の家」
- 北村薫/東京創元社
- これも図書館で予約して読みました。
- 覆面作家シリーズの最新刊なのですが、こ
- の巻で話が始まって一年、覆面作家こと新妻
- 千秋とその編集者岡部良介の春夏秋冬を書き
- きったことになります。この作品には本当に
- 季節感があり、短期間に続けて読んだので彼
- らの一年間を本当に追体験した気分です。
- また、この作者は話題が豊富で今回もハチ
- やドールハウスなどの話題で楽しませてくれ
- ました。本を読むことの楽しみには、新しい
- 知識を得るという事も含まれていますが、推
- 理を楽しみ、軽妙な会話を楽しみ、毎回の話
- 題を楽しみ、ちょっとしたロマンスもあって
- ……という贅沢な作品です、これは(笑)
- おそらく、この覆面作家シリーズはこの作
- 品で終わりだと思われるのが残念です。
- 惜しまれはしますが、気持ちの良い最後で
- した。これほど綺麗に、一年を書ききって話
- を終わらせることが出来るというのが北村薫
- らしいです。
- 本の紹介
- 「すべてがFになる」
- 森博嗣/講談社ノベルズ
- 犀川創平シリーズの最初の作品です。
- この作者のシリーズではこれが一番面白い
- と聞いていたのですが、いつも行く図書館に
- なかったので読むのが遅くなりました。
- さて、いろいろ評判は聞いていたし、この
- シリーズにも慣れていたので読む前から内容
- についていろいろ想像を巡らせていました。
- シリーズ特有の理系的発想から言って、題
- 名の「F」は16進数で言う「15」よって
- コンピューターが絡む話なのだろう……。
- と言うように考えるだけでもなかなか楽し
- かったです。ただやはり、話の展開やヒント
- などが非常にわかりやすいので、先が読めて
- しまいます。だから謎解きの部分では、なか
- なか答えにたどり着いてくれない(犀川創平
- は気付いているのに話さない)事にイライラ
- するのですが、そのせいか一気に読破してし
- まいました(笑)
- しかし、事件のトリックはともかく、真相
- の部分となるといつも考えが及びません。
- このシリーズはいつも、普通の想像力では
- 到達できない殺人の動機が待っています。
- それと、変わらないようでいて少しずつ
- 変化していく人間関係もなかなか面白いです
- シリーズ物ならではの醍醐味ですね。
- 本の紹介
- 「白河夜船」
- 吉本ばなな
- 吉本ばななは「つぐみ」しか読んだことが
- なかったのでですが、この前の対談で興味を
- 持ったので借りてみました。
- この本は3つの短篇から成り立っているの
- ですが、いずれもコミニケーションの喪失を
- テーマに書かれています。
- 表題作となった「白河夜船」は、家にいる
- と眠ってしまう、という話です。俗に人間最
- 大の欲は睡眠欲と言います。眠ること自体が
- 心地よい物でもありますし、睡眠というのは
- 時間を乗り越える一つの方法でもあるわけで
- す。眠ることによって嫌な時間を飛ばしてし
- まうと同時に、外とのコミニケーションの大
- 部分を失ってしまった主人公に作者の、生き
- る事への消極性というものを感じますが、結
- 局は上手に生きてしまっているというところ
- が現代的な文学というところでしょうか。
- 本の紹介
- 「幻惑の死と使徒」
- 森博嗣
- 何度か紹介した犀川創平シリーズです。
- 未だに最初の「すべてがFになる」は読んで
- いないのですが、現在、図書館にリクエスト中。
- さて、今回は脱出の大家だった手品師が殺さ
- れるという事件です。
- ミステリには大きく分けて二つあると僕は
- 思っています。簡単に言うとトリックがあるか
- ないか、ですね。犯人が何らかの工作をして自
- 分の犯行を隠そうとする場合、まさに探偵と犯
- 人の知恵比べとなるわけです。
- 手品に必ずタネがあるように、一見不可能な
- 犯罪も行われた以上、必ず仕掛けがあります。
- 今回は特に手品師が絡むという事で通常では
- 行わない様々な手法を追求することになり、事
- 件は複雑化するのです。
- 僕はこの作品での探偵役、犀川創平のキャラ
- クターが大好きで、今回も彼の思考法や言動で
- いろいろと楽しめましたが、主に活躍したのは
- 犀川の生徒である西之園萌絵の方。
- 今回はどうも最後までトリックを見破れず、
- 意外な結末に唸らされたのでなかなか満足です。
- 本の紹介
- 「覆面作家の愛の歌」
- 北村薫/東京創元社
- さて、覆面作家シリーズの第2弾です。
- 大財閥のお嬢様、新妻千秋は新人推理小説家。
- ペンネームは「覆面作家」おまけに2重人格
- で家では内気なお嬢様、外へ出ると男勝り……
- という荒唐無稽な設定です。北村薫のすごいと
- ころは「空飛ぶ馬」のシリーズと文体からまる
- で違うということ。軽い雰囲気でさっと流すこ
- とも繊細な文章で物語を彩ることも自由自在と
- いうところですね。
- 面白いのは北村薫自身も覆面作家だった事で
- す。本名も性別も出さずに仕事をする、という
- ミステリ作家にふさわしい(?)仕事の仕方で
- す。この本の中にも他社の編集者が新妻千秋を
- 探し出すというところがありますが、どうやら
- 作者にも同じ様な経験があるらしいです。
- 「空飛ぶ馬」シリーズは日常の事件を扱うの
- ですがこちらは主人公の双子の兄が警察官とい
- うこともあって警察沙汰に首をつっこむ事もし
- ばしば。そういった中にも独特のコミカルな
- 雰囲気が楽しめる作品です。
- 本の紹介
- 「シンデレラ迷宮」
- 氷室冴子/新潮社
- さて、また氷室冴子の作品です。
- この人の作品で初めて読んだのは「海が聞こ
- える」でした。この前の「いもうと物語」とい
- い、とても人間が生々しいんですね。
- 「シンデレラ迷宮」は夢物語です。
- 主人公の利根は、自分が夢を見ていると自覚
- しつつ白雪姫や白鳥の湖など様々な物語が交錯
- する世界で過ごしていくわけです。
- そして、そこに繰り広げられる葛藤のドラマ
- を見て、それを作り出した自分を分析していき
- ます。
- 真実優しい人物なのに理解してもらえない白
- 雪姫の継母や自分と他人の幸福が競合すること
- に葛藤を感じる白鳥の湖の踊り子、オディール
- など、主人公のコンプレックスが夢の中の登場
- 人物を苦しめます。
- この物語の爽快なところは主人公がそこから
- 目を逸らさず、自分を見つめ直そうとするとこ
- ろです。自分の弱さを知って克服することで
- 夢の世界の住人を救いだそうとするのです。
- このエネルギーがとても氷室冴子らしい、と
- 感じます。もともとは舞台のための物語らしい
- のですが、見てみたいものです。
12月1日
- 本の紹介
- 「夜の蝉」
- 北村薫/東京創元社
- これほど情緒のある推理小説が他にあるだろ
- うかと思います。
- この作品の文章はとにかく繊細です。主人公
- である「私」の感性が読者を引き込みます。
- さて、これは「空飛ぶ馬」の続編で落語家の
- 円紫さんが探偵役を務める物語です。大きな事
- 件を扱わず、「日常推理」とでも言うべき作品
- になっています。なにげない謎を突き詰めてい
- くとそこにはほろりとするような良い話があっ
- たり、人間の嫌な部分を見せられたりします。
- また、主人公が文学部の学生なのでいろいろ
- な文学を引き合いに出してくれるのも楽しめま
- すし、落語の解説などをしてくれるのも面白い
- です。特に、円紫さんの落語を通じて彼の人と
- なりをかいま見させるところなどには作者の力
- 量、そして落語に対する造形の深さが伺えるの
- です。
- 作品の内容とは直接関係がないのですが、落
- 語にもその人の個性が出るというところに感心
- します。円紫さんの落語は所々、元のものと
- 変わっているのです。彼は落語で人間の醜い
- 部分を語りたくないと言います。そんな彼の
- 推理は常に人間の深い部分を見つめていても
- 常に優しいんです。
- そんな探偵を創造した北村薫という人はやは
- り繊細な人間なんだろう、と想像してしまいま
- す。