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7月16日の読書と生活 #0731

■書感『「Y」の悲劇』
 著者:有栖川有栖・篠田真由美・二階堂黎人・法月綸太郎
 出版:講談社文庫
 定価:533円
 初版:2000年7月15日

 エラリー・クイーンの『Yの悲劇』を下敷きに、ミステリ作家4人が競作した短編集です。

 有栖川有栖は特にクイーンのファンとして有名ですね。
 有栖川有栖はおなじみ、火村助教授と作家の有栖川有栖コンビが活躍するシリーズもの。有栖川の短編はやっぱり面白いと感じさせる一作。シンプルなトリックが冴えています。
 穿ったトリックを使わない正統派の有栖川有栖だからこそクイーンとの真っ向勝負です。

 篠田真由美は建築家探偵、桜井京介などを書いていますが初読でした。トリックよりはシチュエーションという作家でしょうか。幻想的に謎を描くのがうまいです。「悲劇」という意味ではこれが一番かも。
 桜井京介シリーズにも興味が出てきました。

 二階堂黎人は近々読んでみようと思っていた作家の一人。
 初めて読んだのがいきなりメタ・ミステリで、登場人物が読者を意識して話しかけてくるという作品。オチのものすごさは特筆に値しますが、こういう作家のミステリは当たりはずれが大きそうです。

 法月綸太郎はずっと読もうと思っていながら手を出していない作家の一人。この人の作品も作家と同名の探偵が出演しています。こちらもかなり正統派。物語のメインとなるダイイングメッセージ「=Y」が素晴らしいです。

 実は有栖川有栖を目当てに読んだこの本でしたが、また面白そうな作家を3人も見つけてしまいました。アンソロジーってあまり好みではありませんでしたが、こういう発見があるのはアンソロジーならではです。
(2002/07/15)


7月18日の読書と生活 #0732

■書感『宇宙気流』
 著者:アイザック・アシモフ
 出版:ハヤカワ文庫SF
 定価:620円
 初版:1977年6月30日
 関連:アイザック・アシモフ

 先日読んだアシモフ未来史の中のトランターシリーズ、どうもこの『宇宙気流』が最初のようです。

 高価な宇宙繊維カートを産出する惑星フロリナ。その消滅を予言した空間分析家が失踪し、情報の真偽を巡ってフロリナの様々な人間が抗争を繰り広げる……。

 銀河にその勢力を広げつつあるトランターの台頭時期を描いたこのシリーズですが、トランターそのものはほとんど出てきません。詳しくその様子が描写されているのはファウンデーションシリーズの『ファウンデーションへの序曲』くらいでしょうか。敢えて辺境から中心を見つめるというやり方は実にアシモフらしいです。
 さて、今回の舞台、惑星フロリナは労働者階級であるフロリナ人と、支配階級であるサーク人貴族にはっきりと別れた世界。ロボット史では現代の延長を思わせる民主主義的な世界でしたが、鋼鉄都市シリーズでは宇宙に出た人々と地球に残った人々の間に大きな溝があり、トランターはやがて帝国に成長して貴族たちが平民を支配する世界になるわけです。未来に行くに従って、中世世界に戻っていくというのが面白いですね。
 これらの作品群は書かれた時期に大きな隔たりがあるわけですが、若い頃からアシモフはこうした思想を持っていたのかも知れません。
 地球という世界に留まっているからこそ、人類は安定し、平均的になっていく。しかし、一度それが外へと向かっていけば人々の間に大きな差が生まれる……。もちろん、貴族支配が肯定的に描かれる事はないのですが、そこへ至る冒険と競争にアシモフは魅力を感じているのでしょうね。
 さて、作品自体は記憶喪失となった空間分析家が自分を取り戻していく話。最後に大きなどんでんがえしが待っていて、ミステリ的手法を取り込むのがうまいいつのもアシモフ作品という印象でした。
 しかし、このシリーズはやはりどうしても歴史的な壮大さに欠けるという感じがしてしまいます。
(2002/07/18)


7月20日の読書と生活 #0733

■書感『悪魔のラビリンス』
 出版:講談社ノベルズ
 定価:760円
 初版:2001年4月5日

 アンソロジー『「Y」の悲劇』で始めて読んだ二階堂黎人の長編です。探偵、二階堂蘭子が活躍するシリーズものなのですが、よくやるパターンでどうも途中から読んでしまった様子。
 このシリーズ、舞台は昭和三十年代。主人公は大学生の女探偵、二階堂蘭子なのですがどうもただ者ではなさそうです。

 寝台特急「あさかぜ」で、列車に乗っていなかったはずの人間が殺され、その部屋にいたはずの魔術師が失踪する。不可能と思われる犯罪を企てる魔王ラビリンスとはいったい何者なのか……。

 レトロな世界観に謎の怪人、次々起こる怪事件と雰囲気は江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズのよう。正直、少々稚拙な印象はあるのですが、トリックは本物なので、ミステリとしては間違いなく楽しめます。あとは雰囲気が好きかどうかで感想が別れるでしょう。
 この『悪魔のラビリンス』では探偵役の二階堂蘭子についてあまり詳しく書かれていないので、最初の作品を探して読んでみなければいけませんね。ちなみに語り手である蘭子の兄は作者と同名の二階堂黎人となっています。
『悪魔のラビリンス』は魔王ラビリンスと二階堂蘭子の対決の序章に過ぎない……という事なので、こちらも進めていくつもりです。
(2002/07/20)


7月22日の読書と生活 #0734

■書感『俺はその夜多くの事を学んだ』
 著者:三谷幸喜
 出版:幻冬舎文庫
 定価:457円
 初版:平成11年4月25日
 関連:三谷幸喜

 三谷幸喜の短編小説です。
 これが「短編小説集」ではないんですね。総ページ数で100ページくらい。唐仁原教久のイラストと共にぽつり、ぽつりと書かれた文で構成されています。感覚的には紙芝居に近いかも知れません。
 あらすじはごくシンプル。会社の同僚に恋した男が、相手をデートに誘い、平凡ながら幸せな時間を過ごし、帰ってきてから相手に電話をしようと悩む……というものです。
 この男の悩みっぷりがとにかくすごい。三谷幸喜のエッセイでも、くだらない事に延々と悩む様がよく書かれていますが、まさにそのまんま。
 劇だったらどんな配役になるだろう……なんて考えてしまいます。西村雅彦だったらあまりにはまり役です。
 個人的には安倍寛みたいなかっこいい役者がくだらない事で延々と悩んだりするほうが好きだったりはしますが。
 まあ、実を言うと三谷幸喜の小説という事でかなり楽しみにしていたのですが、あまりに短いのでちょっとがっかり。
 小説って少ないんですよね。
 古畑任三郎などはありますが、あれはあくまで脚本のノベライズですからちょっと違います。
 それでも、やはり三谷作品は面白いです。
 三谷幸喜は真っ正面から笑いに取り組んでいます。
(2002/07/22)


7月24日の読書と生活 #0735

■書感『タナトス・ゲーム 伊集院大介の世紀末』
 著者:栗本薫
 出版:講談社文庫
 定価:619円
 初版:2002年7月
 関連:伊集院大介シリーズ

 久々の伊集院大介でした。
 そもそも伊集院大介シリーズを読むきっかけとなったのはパソコン通信が舞台となった『仮面舞踏会 伊集院大介の帰還』でしたが、これはその続編にあたります。

 ある日、伊集院大介の事務所に送られて来た本は、伊集院大介本人とその助手、アトムくんこと滝沢くんが愛し合うという内容のいわゆるやおい本だった。それがきっかけでやおいの世界に興味を持った伊集院だったが、様々な同人誌を読んで研究を進めていくうちに、不可思議な事件に行き当たる……。

 数ある探偵物と比べてもかなり異色の存在である探偵、伊集院大介。何歳になっても優しげな好青年という雰囲気の彼ですが、その好奇心はどんな世界にでも進んで首を突っ込まずにはいられません。数年間の外国暮らしの後に日本に帰ってきた伊集院大介はアトムくんの助けを借りてパソコン通信にはまり、ネット上の情報収集だけで殺人事件を解決するに至りますが、今度の舞台はインターネット。そして事件は美少年どうしの愛を描いたやおい本が好きな女性たちの間で起こります。
 そもそも、著者の栗本薫は現在のやおいのブームに先駆けて美少年愛を描いたという人物。しかし、今の風潮はまた著者の理解を超えているようで、それが伊集院大介のとまどいとなって作品に表れています。
 論理的な推理を軸に話を進めていくのがミステリの基本ですが、伊集院大介の基本はあくまでフィーリング。様々なパズル断片が伊集院大介の中で組み上がり、誰もが納得する事実として浮かび上がります。このあざやかさは、多作品の追随を許さないと言って良いでしょう。
 新時代の病なのか、それとも新しい人類の誕生なのか。伊集院大介の体験する世紀末は、ミステリという以上に読者を新しい世界へ誘ってくれます。
(2002/07/24)


7月26日から27日の読書と生活 #0736

■書感『機動戦士ガンダム THE ORIGINE 2巻』
 作者:安彦良和
 原作:富野由悠喜
 出版:角川コミックス・エース
 初版:2002年7月26日
 関連:安彦良和

『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー安彦良和が自ら描くガンダムコミックの第二弾です。

 連邦軍のモビルスーツ開発計画を追うジオン公国のエース、シャア少佐はモビルスーツ、ガンダムと共にサイド7を脱出した戦艦ホワイトベースを追う。正規軍人の大半を失い、アムロたち民間人まで戦闘に駆り出される中、彼らは生き残る事ができるのか……?

 原作をさらに深く掘り下げた安彦流ガンダムはもともとシビアな現実や人間関係を描いていたガンダムをさらに緊張感あふれるものとしています。
 特に今回、目立ったのは若干18歳にしてホワイトベースを指揮する事になった艦長、ブライト・ノア。ガンダムの活躍によって辛くもサイド7を脱出したホワイトベースは、シャアの補給を妨害するために逆襲をかけます。
 シャアを倒すチャンスだと血気にはやるブライトの様子はなかなか新鮮でした。一方、頭ごなしに命令される事に耐えられないアムロはガンダムでの出撃を拒否。ブライトとの対立はさらに深まっていきます。
 2巻の内容はルナツーの脱出と大気圏突入まで。
 次巻からはいよいよガルマ・ザビの登場となりますが、ジオンの支配者、ザビ家の末子としてコンプレックスを持つ彼のようなキャラクターこそ安彦良和が得意とするキャラクター。
 地球での攻防がどうなっていくのか楽しみです。
(2002/07/26)

■書感『暗黒星雲のかなたに』
 著者:アイザック・アシモフ
 出版:ハヤカワ文庫SF
 定価:680円
 初版:1977年
 関連:アイザック・アシモフ

 アシモフの長編SF。
 読んでみたところ、どうもこれはどのシリーズにも入らないっぽいです。もしかしたら銀河帝国が出来る前、多くの星間国家が存在する時代なのかも知れません。

 星雲諸国の領主の息子、バイロンは地球に留学していたが父親が反帝国運動をしていた罪で暗殺され、自らも命を狙われる事になる。逃走の途中、帝国に対抗するための組織が暗黒星雲のかなたにあるという話を聞き、その本拠地である星を探す事になるが……。

 どうやらこれはアシモフの最初期の作品らしく、割とストレートな世界観で冒険が展開するというスペースオペラです。
 ただし、すべてに決着をつけるのは銃撃戦などではなく、陰謀に継ぐ陰謀。登場人物すべてが目まぐるしく頭脳を回転させて戦いを展開していきます。
 アシモフらしく普通に面白いのですが、あまりパンチのない作品……と思っていたら最後に素晴らしい大逆転があります。
 バイロンが探して求めていた、帝国を覆すほどの凄まじい武器が記された古文書とは何か。こればっかりは読んでいて本当にびっくり。このオチのためだけにも読む価値はあります。


7月29日から31日の読書と生活 #0737

■書感『黄色い部屋はいかにして改装されたか』
 著者:都築道夫
 定価:980円
 出版:早川書房
 初版:1975年6月20日
 関連:「Y」の悲劇

 アンソロジー『「Y」の悲劇』に引用されていたため、興味を持ったのがこの『黄色い部屋は〜』です。
 辛口だろうとは思っていたのですが、思った以上でした。
 まあ、発行年が1975年なので扱われている作品はかなり古いのですが、クイーンやヴァン・ダインさえも場合によっては酷評されてしまいます。
 元々、書評というのは誰のためにあるのでしょうね。この本の場合、著者の都築道夫が語りかける相手は間違いなく一般の読者ではなく、同業者である推理小説家や書評家です。
 名作だからといって、古典だからといって、それが完璧な作品であるとは限りません。巨匠の作品に大きな欠点がありつつもそれが聖典としてあがめられるのは、欠点が許されるからではなく、それを補うだけの長所があるからだとわからせてくれます。
 著者の都築道夫は単に密室やダイイングメッセージを解くだけの小説を容認せず、あくまで自然な物語の流れに沿った謎解きあってこその傑作だと主張します。そのために古来から様々な作家が工夫を凝らしてきた過程を紹介していきますが、その中にもやはり完璧と言える作品はないようです。
 批評家や作家に向けられたメッセージを読者が読んで何が楽しいのか……というと、なかなか難しいものはありますが、結局のところなんだかんだ言われても、こき下ろされている作品が面白かったりはします。しかし、もしかしたら指摘されるような欠点がなくなればより傑作が生まれるのではないか、という期待もありますね。
 ミステリの世界はお約束の展開になりがちですが、すばらしいストーリーテリングの中にこそ謎はより光るようにも思えます。
(2002/07/29)

■書簡『あずみ 二十六 決意の刃』
 作者:小山ゆう
 出版:小学館ビッグコミックス
 定価:505円
 初版:2002年9月1日
 関連:『あずみ』

 伊達政宗の幕府転覆計画を阻止するため、仲間と共に敵地へ潜入したあずみ。再び世を戦国に戻し、自分たちの存在意義を取り戻そうとする忍たちの決意は堅く、あずみは二人の仲間を失ってしまう。敵を斬りたくはないが、仲間も失いたくはない。そんな想いにゆれるあずみだったが……。

 この巻のには鈴木光司が絶賛の言葉を寄せています。
 次々と得意で魅力的なキャラクターを想像しては、あずみにそれを葬らせてしまう小山ゆうの手法が鈴木光司には魅力的なようです。
 確かに、登場して生き残っているキャラクターはほんのひとにぎり。これほどまでに無情を感じる漫画はありません。敵でも仲間でも、魅力を感じたときにはすでに失ってしまうという恐れが存在するのです。あずみが感じ続けているこの無常感をそうやって読者の共有します。
 前回の北国死闘編とは違い、自分たちだけではなく飢えた仲間や村を救うために、幕府転覆計画に参加しようとしている敵の忍たち。その中にはかつてのあずみたちと同じように、子供ながらも究極の訓練を受けて働く者たちもいるのです。
 そんな彼らをあずみは斬れるのか?
 どちらに転んでも、彼女に幸せはやってこない。果たして、任務の先に安息の日々がある事を祈るしかありません。
(2001/07/31)



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