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10月1日の読書と生活 #0759

■書感『吸血の家』
 著者:二階堂黎人
 出版:講談社文庫
 定価:819円
 初版:1999年7月15日
 関連:二階堂蘭子シリーズ

 二階堂蘭子シリーズの第四弾となります。
『悪魔のラビリンス』『聖アウスラ修道院の惨劇』『地獄の奇術師』と順番に読んできましたが、これまでの中ではこの『吸血の家』が一番の傑作と言えます。

 二階堂家の遠縁に当たり、江戸時代から遊郭を営んでいた雅宮家。吸血姫の怨念が巣くうというこの家に下された殺人予告に二階堂蘭子が立ち向かう……。

 足跡なき殺人という推理小説の定番トリックに真っ向から挑んだのがこの作品。密室に比べ、様々な細工がしにくいこにテーマからは傑作が生まれにくいと言われます。
 あいかわらずミステリおたくぶりを発揮する二階堂蘭子は、様々なミステリ作品を引き合いに出し、事件の謎を語ろうとします。過去と現代、二つの足跡無き殺人を解いたとき、事件の真相は明かされるのですが、特に過去の殺人の方はシンプルかつ大胆なトリックで唸らせてくれました。
 二階堂黎人は雰囲気を楽しむもの……と割り切っていましたが、これはまったく甘く見ていたとしか言いようがありません。また、今回は遠縁の家が舞台だからか、蘭子の冷徹ぶりも影を潜め、いつもの冴えをなくしています。しかし、実はこれくらいの方が魅力あるキャラクターになるのかも知れません。
 もちろん、いつもの蘭子あっての今回なのですが。
 今さらですが、二階堂黎人、なかなか読み応えがあります。二階堂蘭子シリーズには人狼城の恐怖という数冊に渡る長編がありますが、そちらも読んでみたくなってきました。


10月5日の読書と生活 #0760

■書感『人形つかい』
 著者:ロバート・A・ハインライン
 出版:ハヤカワ文庫SF
 訳者:福島正美
 定価:680円
 初版:1981年
 関連:ハインライン

 ハインラインというと『夏への扉』の印象が圧倒的に強いため、どうしても心温まる話を書くというイメージになりがちですが、ラザルス・ロングものやこの『人形つかい』などを読むと、意外とお茶目と言うか、意地悪なユーモアに満ちた作品を書いたりするんだなと思ったりします。
 近未来、合衆国の一部地域が突如として連絡を絶った。特殊調査機関に所属するサムは任務を帯びて同僚のメアリ、ボスのオールドマンと共に現地へ乗り込む。そこで彼らが見たのは、ナメクジのような姿をして人間に取り憑き、意のままに操る恐るべき知的生命体だった……。
 侵略もの、そしてナメクジのような宇宙人というのは古典的なSFにありがちのテーマ。映画にしたら間違いなくB級になりそうですが、調査員としてはごく平凡で特殊な能力もないサムが、ナメクジの恐怖と戦い、それを克服して人類全体を逆襲に導いていく成長物語としては、なかなか見応えがあります。
 メアリとの恋愛、サムの親子関係をはじめ、意外なほどシリアスに人類VSナメクジの戦いが書かれ、さすがストーリーテラーと言われるハインラインと思いました。
 まあ、ナメクジと戦うために特殊調査機関が提唱した政策などはかなり笑えたりするんですけどね。
 ハインライン好きならこういうのもあったという事で、読んで見て欲しい作品です。もちろん、誰が読んでも楽しめますよ。


10月8日の読書と生活 #0761

■書感『海のある奈良に死す』
 著者:有栖川有栖
 出版:角川文庫
 定価:600円
 初版:平成10年5月25日
 関連:有栖川有栖

 この本はまず、タイトルで勝利しているのではないでしょうか。『海のある奈良に死す』という美しいタイトルが何より興味を引きます。もともと有栖川ファンである僕としても、これは読まねばと思っていた作品です。

 ミステリ作家、有栖川有栖の同業の友人、赤星楽は「行ってくる、海のある奈良へ」と言い残し、取材旅行へ出かけた後、死体となって発見された。有栖川有栖は犯罪学者、火村と共に赤星の足跡を追う……。

 実は手に取るまで知りませんでしたが、有栖川有栖の二大シリーズのうち火村助教授ものの長編でした。作家と同名の語り手が登場する火村シリーズは火村英生のクールさと対称的に、語り手有栖川有栖の情緒的な視点が特徴的。「〜殺人事件」といったものより、こういった文学調のタイトルが似合っているかも知れません。
 これまでは火村の捜査に同行したり、巻き込まれたりといった事が多かった劇中の有栖川有栖ですが、今回は同業者が最後に書こうとしていた作品の謎を追いたくて、自ら行動を開始していくという珍しいケース。
 書かれなかった傑作への興味、それを残せずにこの世を去った友人への思い入れなどには、語り手有栖川を通して、作者有栖川有栖のミステリへの情熱がこもっているようです。
 それだけに、中身の方もプロットとトリックが融合した素晴らしい作品となっており、これまでの有栖川作品の中でも屈指のものとして数えられそうです。


10月11日の読書と生活 #0762

■書感『しゃべくり探偵
     ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの冒険』
 著者:黒崎緑
 出版:創元推理文庫
 定価:600円
 初版:1997年1月31日

 口を開けばしょうもないボケしか出てこない大学生の保住くんは、実は類い希な推理能力を持った安楽椅子探偵。今日も友人、和戸くんの遭遇した不思議な事件にボケながらも真相を解き明かしていく……。
 カバー絵はミステリを題材にした作品集『コミカル・ミステリーツアー』なども出している4コマ漫画の鬼才、いしいひさいち。このいしいひさいちの絵が、何より作品の内容にマッチしています。
 短編が4つ入っているのですが。これがまたすべてベタベタ、コテコテのギャグだらけ。ボケの保住くんも去ることながら、ツッコミの和戸くんも相当にしょうもない人間です。
 特徴的なのは、情景描写などが一切されない事。4編のうち3編は会話のみ。1編は手紙のやりとりのみで構成され、言ってしまえば本当に漫才です。
 ミステリとしてはまあ、普通なのですが、ボケにボケを重ねてまったく話が進んでいないように見せかけながらきっちり推理のための材料を引き出しているという手法はなかなかで、ツッコミの和戸くんが真面目に話を聞かない保住くんにイライラをつのらせていく気分をそのまま味わえます。
「読者への古戦場や!」
「お前とはもうやってられん」
「ほな、さいなら〜」
 本当に漫才でやっていたら、この二人のしゃべりについていくために必死に頭を働かせなければならなさそう。もしくは、馬鹿馬鹿しい笑いに気を取られてまったくミステリと思えずに解決編までいってしまうかも。
 数あるミステリの中でも、これはかなり異色。作者の黒崎緑が他にどんな作品を書いているのか、かなり気になります。


10月14日の読書と生活 #0763

■書感『臨機応答 変問自在2』
 著者:森博嗣
 出版:集英社新書
 定価:720円
 初版:2002年9月22日
 関連:森博嗣

 森博嗣の問答集、第二弾です。
 第一弾の方は某国立大学の助教授である森博嗣が、授業で学生から受け付けた質問に答えた中から選りすぐったものでしたが、今回は一般の読者から質問を募集したもの。
 そのぶん、質問の幅が広くなっていおり、小説家としての森博嗣に向けた質問が増えています。
 真面目に答えているものもあれば、逆に質問の意味を問われてしまったり、はぐらかされてしまったりもしています。
 特に多いのが、社会的な現象や一般的な事について「〜についてどう思いますか」と質問して「特にどうも思いません」と言われてしまったり、「ケース・バイ・ケースです」「前提条件がわからないのでお答えできません」と片づけられてしまうケースですね。
 逆に、前作の『臨機応答変問自在』を読んでいて森博嗣がはぐらかせないように二重三重に条件付けなどをしたあげく、「そう思います」などとあっさり答えられてしまう場合もあって、そうなると質問した人は悔しいだろうな、などと思ったりもします。
 森博嗣は授業で良い質問をした学生に良い点をあげるということですが、授業でも「良い質問」をするのはかなり難しそうですね。一度、授業を受けてみたいものです。


10月16日の読書と生活 #0764

■サッカー日本VSジャマイカ

 ジーコが日本代表監督に決定してから待ちにまった初代表戦が国立競技場で行われました。なんといっても、注目されるのは中田、中村、小野、稲本の中盤4人でしょう。ジーコがブラジル代表時代、ファルカン、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾと共に呼ばれたように、彼らこそ日本の黄金のカルテットと言えます。
 ジャマイカ代表と言えば94年フランスワールドカップの予選で、日本が唯一勝てると目されていたチームでしたが、結果は1-2で日本の負け。収穫は中山が決めた日本のワールドカップ初得点のみでした。
 こうなるとやはり、あっさり勝って当時の日本代表からの進歩を見せてほしいところです。
 会社が18時定時だったので急いで帰ったのですが、19時20分過ぎに家についてみると前半6分の小野の得点ですでに日本リード。中村の動きがやや悪いものの、中盤でのボール支配は完全に日本が圧倒、特にボール回しの速さには目を見張るものがありました。
 とは言っても、やはりなかなか得点できないのが日本。鈴木や高原もなかなか自分でシュートを打ってくれません。
 そうこうしているうちに前半は終了し、後半に突入しました。後半もほぼ前半と同じペース。途中、高原と柳沢、小野と福西、稲本と中田浩二が交代し、試合を進めました。
 しかし、後半で結局ジャマイカに得点され、試合は引き分けのまま終了。試合の内容が良かっただけに、結果としてはかなり不満が残ります。
 しかし、ジーコも言うように2日しか練習していないチームとしては上出来かも知れません。さらに、小野は試合当日の朝から39度の熱があり、点滴を受けて試合に出たということ。
 それでいてあれだけ活躍したのだから大したものです。
 引き分けに終わったとはいうものの、まだ自分たちの得点パターンを持っていない日本。やや守備にもろさを見せてしまったのと併せて、今後の課題となるでしょう。
 次は11月のアルゼンチン戦。ジャマイカとは格の違う相手に、どれだけの力を見せてくれるのか楽しみです。


10月18日の読書と生活 #0765

■書感『獣の数字 1』
 著者:ロバート・A・ハインライン
 訳者:矢野徹
 出版:ハヤカワ文庫SF
 定価:600円
 初版:1993年3月23日
 関連:ハインライン

 全三冊からなるハインラインの長編SF小説第一巻です。

 パーティーで出会った女性に人目で恋をしたゼバディアは彼女の父親である科学者、バロウズ博士の発明である次元移動装置を巡るトラブルに巻き込まれる。
 未知の知的生命体に狙われた彼らは、次元移動装置を使って別な宇宙へと逃げ込む事に……。

 主人公の名前はゼバディア・ジョン・カーター、ヒロインはデジャー・ソリス・バロウズ。火星シリーズを読んでいなくても、その名前が有名なSF、火星シリーズの主人公とヒロインであることは知っています。
 作中の登場人物達もそれを意識しており、バロウズ博士もデジャー・ソリスことディーティーも、主人公もバロウズ博士と結婚するヒルダもSFマニアという設定。メタっぽいですね。
 そもそもこの話を読み出したのは、ラザルス・ロングが登場するという事からだったのですが、時空を自由に移動できる装置のおかげで、もしかしたらフィクションに登場するような世界はすべて登場するのかも……という気がしてきています。
 登場人物達のやりとりはまさにいつものハインライン節なのですが、『愛に時間を』などと比べてそう違うものではないので、楽しめるのはそこそこといったところ。むしろパロディ作品として読むべきなのかも知れません。
 一巻ではあまり話が進まないので、物語的な面白さとしては未知数。とりあえず読み通してみないと総合的な評価は下せないですが、いまのところあまりテンションが高くなってくる作品ではないようです。とにかくラザルス・ロングの登場を期待して続きにいってみたいと思います。


10月22日の読書と生活 #0766

■書感『人狼城の恐怖 第1部』
 著者:二階堂黎人
 出版:講談社文庫
 定価:933円
 初版:2001年6月
 関連:二階堂蘭子シリーズ

 二階堂黎人の大長編ミステリ、第1部です。
 これ一冊でも669ページですが、なんと第四部まであるという大作です。

 ドイツとフランスの国境地帯にそびえ立つ双子の城、人狼城。製薬会社のキャンペーンで、ドイツ側「銀の狼城」に招待された客達は、そこで連続殺人事件に遭遇する……。

 ちなみにこれは二階堂蘭子シリーズの長編だそうですが、第1部では蘭子どころか、日本人の名前すら登場しません。今回がドイツ編で、次がフランス編。蘭子の登場は第3部あたりからでしょうか。当然のこと、事件解決までそうとう待たされるわけですが、ここは大風呂敷を広げてくれた二階堂黎人に期待したいところです。
 導入ともなる今回のドイツ編は669ページを一気に読ませるだけの迫力に満ちており、事件の謎、物語の背景ともに今後の展開を期待させます。
 オカルト色の強い二階堂黎人は、むしろヨーロッパあたりを舞台にした方が自然に作品が書けるのかも知れません。
 そして、登場人物のほとんどがキリスト教徒であるこの作品においては、キリスト教徒ではない、すなわち神を畏れる事のない二階堂蘭子が重要な役割を担う事は間違いないでしょう。
 これは先が楽しみです。


10月25日の読書と生活 #0767

■書感『黒い家』
 著者:貴志祐介
 出版:角川文庫
 定価:680円
 初版:平成10年12月10日

 第4回日本ホラー小説大賞の大賞受賞作品がこの『黒い家』です。一口にホラーと言ってもいろいろありますが、これはサスペンスの部類。しかし、この作品は本当に、これまで読んだ中でもっとも恐ろしいサスペンスかも知れません。

 生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定を担当している若槻慎二は、ある日、呼び出された顧客の家で子供の首吊り死体を発見する。他殺の疑いが捨てきれず独自に調査を始めた若槻だったが、やがてのその周囲に不穏な影がつきまとう……。

 万が一のときのために存在する保険制度。しかし、それが悪用されたとき、保険は命をお金に変える手段となってしまいます。保険金が殺人の動機となる事は、ミステリ小説の世界のみならず、現実にもある話です。
 業務として日常的に保険を取り扱っている若槻は、保険制度に様々な暗黒面が存在する事を知っています。子供が首を吊った、通称「黒い家」を巡り、日本の社会や人間のモラルそのものへの疑問が沸き上がる中、話は生物としての人間の遺伝子にまで及びます。
 多くの人が安全に生活できるように見える日本社会。しかし、その多くはモラルへの信用があって始めて成り立ちます。
 この恐ろしさは、単にモラル破壊者そのものへの恐怖ではなく、社会のシステムの危うさや、人間そのもののもろさといったところに根ざしています。
 本当に怖いサスペンスこそ、最高峰のホラーなのだと認識させられる作品でした。


10月28日の読書と生活 #0768

■書感『ハリー・ポッターと炎のゴブレット 上下』
 著者:J・K・ローリング
 訳者:松岡佑子
 出版:静山社
 定価:1900円
 初版:2002年11月1日
 関連:ハリー・ポッターシリーズ

 ハリー・ポッターは14歳。ホグワーツ魔法学校の4年生となっています。7学年まであるこの学校で、ハリーはもう下級生ではなくなっています。1巻から順に1年ずつ経過してきていますが、もうかつてのように自分の運命に翻弄されるだけのハリーではありません。
 次々と明らかになる自分の過去、そして迫る闇の魔法使いヴォルデモートの復活。来るべき戦いの時に備え、ハリーは成長していきます。

 長らく中止となっていた三大魔法学校対抗試合が開催される事になったホグワーツ魔法学校。17歳からという年齢制限にも関わらず、代表選手を選ぶ炎のゴブレットはハリーの名前を吐き出した。ハリーに迫る魔の手、そしてロンとの友情の危機。次々と試練を乗り越えていくハリーだったが、ついにヴォルデモートの魔の手が……。

 あいかわらず勉強熱心で、ハリーの助けとなってくれるハーマイオニー。いつも明るくハリーを励ましてくれるロン。この二人との絆こそ、ハリーにとってはいちばん大きな力です。
 まだ14歳でありながら、魔法界を震撼させる闇の大魔法使いヴォルデモートに狙われるハリーですが、少なくとも学校では特別に優秀な生徒ではありません。
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』でハリーの父親、ジェームズの過去を断片的に知ることができますが、そこで最も重要だったのは、ジェームズが過去に作り上げてきた人間関係こそが現在ハリーを守っている力であるという事です。
 ハリーを見守るダンブルドア、師となったマーピン、そして後見人のシリウス・ブラック。誰もがハリーを心配し、守ろうとするのがジェームズの忘れ形見であるだけでなく、ジェームズと同じ資質を持ち、人を惹きつけていくからではないでしょうか。
 さて、今回の『炎のゴブレット』では今まであまり見られなかった、ロマンスの要素があちこちに顔を出します。思春期を迎えた彼らの人間関係はこれからより複雑になっていきそうです。5巻は『ハリー・ポッターと不死鳥の勲章』だそうですが、1年も待ちきれるでしょうか。
 いつまでも読んでいたいハリー・ポッター。次は上中下の三冊でもいいくらいです。



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